ネズミ退治

日本で一番ネズミが多いのは新宿の雑居ビル街ということです。私は新宿区民。新宿の住宅地でもっとも多いのは下落合地区、そこに築四十年の木造家屋に住んでいるので、今までネズミがこなかったのが不思議なほどです。そして一九九六(平成八)年お正月にとうとうネズミが出現しました。はじめは、サンルームにおいた七草を植えたセット、このスズナとスズシロ、つまり大根と蕪が喰われました。半信半疑でブロッコリーをおいてみたら、みごとに大きくかじられネズミが通ってきたのだなと思いました。実は私、終戦前の二年間、白ネズミを何百匹も扱って動物実験をしていました。当時は人の食べるものも足りない時代でしたが、陸軍の食糧の研究所でしたから電話一本で、「五十グラムのオスラッテ五十匹」なんていえば、本郷の動物屋からさっと届いたのでした。扱うのは全部オスです。メスは性周期があるので実験にムラが出るのです。大きさは、五十グラムを求めて百グラムくらいに育ててから実験に入り、百五十グラムになればもう使いものにはならない、というのを丸二年やっていたのです。


ネズミとの記憶

だからネズミを見ればなつかしく、一目で何グラムか今でもわかるほどです。また、素手でパッとつかまえることも、とても上手だったのです。もちろん、はじめはこわごわ軍手をはめてつかまえましたが、素手のほうがやりやすくパッパとつかまえて体重を計ったり、ピクリン酸という黄色い色素で印をつけます。こんな経験があるものでネズミには敵意はもてなくて、地下鉄の駅でドブネズミを見てもなつかしく、うちのサンルームにきたのなど少しはうれしい気持ちもありました。それが、急にうちの台所も、天井製も押し入れの中もネズミだらけになって、もうどうしようもないことになってしまいました。新宿区はネズミに対しては出来る限りの対策をしてくれるところで、区役所の出張所でも本所でも親切に対応してくれます。結局、クマリンやアンツーの入った毒餌と粘着板をもらってきました。ご近所で古い家のとりこわしが四軒あったのでそこからきたのではないかということでした。うちのお向かいも両隣もみんなネズミがきましたが、鉄筋鉄骨などの新しい家は穴をふさぐだけで退治できます。木造は至るところにすき間があるので駆除はできません。